スタッフブログ
2018年7月 8日 日曜日
マルトリートメントとは?(最近では虐待という言葉の替わりに用いることもあります。
西宮北口のユニコの森 村上こどもクリニック院長の村上博です。今日は、最近虐待の報道をみて胸をいためていますのでマルトリートメント症候群の長期予後について、小児科学会からの転記でご紹介します。 虐待と言うと、身体的な逆泰と思う方もおられるかもしれませんが、このマルトリートメントには、私は過度な押し付けによる教育虐待も入ると思います。 子ども虐待は、たとえそれが死に至らない場合であっても、その子どもの心と脳に大きな傷跡を残し、 青年期、成人期になってからも精神的後遺症となって残り、精神障害や人格障害、行動面の問題等を 引き起こしかねません。 幼少時期に安心して生活することができず、いつも不安や恐怖に脅え、自分を大切な存在であると 感じることができずに育ってしまったことで、自己尊重感が築けず、対人関係の築き方にも障害を来たし てしまいがちです。そのため、何とか青年期 ・成人期まで生きてきたとしても、抑 うつに陥りやすかった り、ささいなことで不安を強めたり、無気力や自己嫌悪から自傷、自殺企図などを示す場合があります。 かつての外傷体験の影響を心身に色濃く残し、不眠や悪夢、パニック発作、解離性障害や身体化障 害、独特の対人関係の問題、薬物 ・アルコール依存等の嗜癖行動等の情緒的、行動的問題を抱えて いることは少なくありません。 もちろん、子ども時代に受けた被虐待体験を克服し、人生を肯定的に生きているサバイバーは沢山 います。しかし、そこには多くの内的葛藤や怒りを乗り越えるための並々ならぬ勇気と努力が必要だっ たこと、また家庭内外の第三者による助けに恵まれなければならなかっただろうことは想像に難くありま せん。いずれにせよ、私たちは、虐待の被害は、子ども時代だけではなく、大人になってからも精神的後 遺症となって残り、後々の人生にも色濃く影響を残す可能性があるということを忘れてはいけないので す。 (1) 被虐待による認知機能や脳とこころの発達に及ぼす影響 小児期の虐待で受けた身体的な傷がたとえ治癒したとしても、発達過程に負った傷は簡単には癒さ れないことがわかってきました。児童虐待が認知面 ・情緒面の発達に及ぼす影響は、心理的なものの みならず、発達している最中の脳自体の機能や精神構造に永続的なダメージを与えてしまうことからも 生じるということが、近年の研究で明らかにされつつあります。虐待を受けることで、子どもの脳では分 子レベルの神経生物学的な反応がいくつも起こり、それが神経の発達に不可逆的な影響を及ぼしてし まうというのです。 虐待のストレスによって、認知機能の発達が阻害され、知的障害・学習障害のような様相を示していく ことがありますし、記憶や情動を適切に制御する力が損なわれ、落ち着きのなさや多動傾向 ・衝動的な 傾向を示したり、フラッシュバックや夜驚、ぼんやりしたり記憶が欠落するといったような解離症状を示す こともあります。怒りや恐怖などの感情をコントロールすることができず、不適切なところで急に爆発させ てパニックになったり、衝動的、攻撃的な行動に至ってしまうこともあります。 そうなると、対等な対人関係を築いたり円滑な集団生活を送るためのルールを身に付けることも困難 となり、年齢相応の社会性を伸ばすこともできなくなります。虐待を受け、周りとの快適で安心できる関 係を経験することなく育ってしまうと、良好な自己像を形成することも難しくなります。「自分は愛される 価値のないだめな人間だ」という感覚を持ち、自己尊重感が育ちません。そうなると、ますます周りとの 対人関係や社会適応が困難なものとなり、社会性の発達は阻害されてしまいます。 虐待は、さまざまなレベルで、子どもの心身の健やかな発達を阻害してしまうのです。 (2) 青年期・成人期に現れる被虐待の影響 子ども時代に受けた虐待が精神的後遺症 (トラウマ)となって残り、青年期 ・成人期になってからいろ いろな問題を引き起こすことは少なくありません。これまでの報告からは、うつ症状や自殺企図、アルコ ール・薬物依存を有する男女では、一般の人よりも虐待された経験を持つことが多いということが分か 56 っています。ケーススタディでは、摂食障害、不眠症、ひきこもり、パニック障害、身体化障害等の実例 も紹介されています。子ども時代に性的虐待を受けた人の多くが性的機能障害を持っていますし、極度 の無力感と自己嫌悪からの自殺念慮、多重人格障害といったさまざまな精神面の問題で苦しんでいる 人もいます。 子ども時代に虐待を受けたサバイバーの内面に湧き起こりやすい感情は怒りと敵意ですが、女性の 場合、怒りを自分に向け、自己破壊的行動や自傷行為に走る傾向があります。一方、男性の場合、怒 りを外に向ける傾向があり、家族や他人を傷つける行為に至ることもあります。成人男性加害者の中に は子ども時代に暴力を受けた経験を持つことが多く、男性にとって、子ども時代の被害経験は粗暴 ・攻 撃行動の学習になることが示されています。 被虐待経験と思春期以降における非行 ・犯罪傾向の関連についても、調査がなされています。非行 に至った男女の内2割余りに虐待かネグレクトの被害が認められたという調査結果や、虐待やネグレク トで通報された家庭から非行少年が出る確率は 50%という報告があります。 気分の不安定さと衝動的な傾向、独特な対人関係様式(対人恐怖を持ちながら、特定の心を開いた 他者には著しく依存し退行するが、時として攻撃する。)、不確実な自己同一性といった特徴が重なれ ば、境界性人格障害という診断が付くことになります。慢性的な空虚感を埋めるために薬物乱用や自 傷行為に走ることも多く、そうなると治療も困難を極めることになります。他にも、反社会性人格障害や 回避性人格障害等に、被虐待経験の影響が関連している可能性があり、子ども虐待は、人格形成に も深い傷跡を残すことがあると、私たちは認識しなければなりません。 以上のように、子ども時代に受けた虐待の精神的後遺症のために、大人になってからも社会生活を 送る上で大きな障害を長期にわたり背負わされることになるのです。 (3)虐待の世代間伝達 被虐待児のおおよそ 3 分の 1 が、成長して親になり我が子に対して同じように虐待やネグレクトを反復 すると言われています。しかし、子ども時代に親から虐待を受けた人が皆、好きこのんで、自分の子ども に虐待を加えるわけではありません。むしろ、愛したいのだが愛し方が分からない、ちゃんと育てたいの だが、暴力以外の育て方や躾け方を知らないという言葉を聞きます。多くの場合、自分が愛されてこな かったために、どうやって愛すればよいのか、どのように育てればよいのか分からずに虐待に走ってしま ったり、子育てから目を背けてしまう親なのです。さらに、先にあげたような精神的な後遺症を抱えなが ら親になってしまった場合、自分が生活を送るだけでも大変なのですから、子育てに伴う困難は並大抵 のものではないでしょう。自己尊重感を持てない人が子どもを尊重し、他人を信頼できない人が子どもと の信頼関係に開かれていくことが、容易にできるでしょうか。 したがって、子ども時代に虐待を受けた経験のある人が親になり子育てに困難を感じている場合こ そ、何よりも手厚く具体的な子育て支援を向けるべきです。それは、大人になった被虐待児を救うことに なりますし、新たな被虐待児が生まれることを防止することにもなるのです。 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会、2014.3
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2018年7月 4日 水曜日
子宮頸がんワクチンについて
子宮頸がんワクチンとは? 子宮頸がんの原因のひとつがヒトパピローマウイルス(HPV)です。HPVは性行為などで感染します。HPVに感染しても、血液中に抗体ができないので、このウイルスに感染した組織は、ある確率で上皮内異形成(CIN)などと呼ばれる異常な状態に変化します。大部分は自然に正常状態に戻りますが、一部の場合はさらに進行して子宮頸がん(浸潤癌)になります。 子宮頸がんワクチンはHPVの感染を防ぐことで子宮頸がん予防を狙うワクチンです。すでに感染したHPVを排除する効果はありません。 HPVは細かい型に分けられます。16型、18型などが子宮頸がんを発生させやすいとされるほか、100種類以上の型が知られています。現在日本では、2種類の型のウイルスに対応した2価ワクチン(商品名サーバリックス)と、4種類の型のウイルスに対応した4価ワクチン(商品名ガーダシル)が使われています。 ほかにも日本では未承認ですが9価ワクチン(商品名ガーダシル9)が海外で使われています。9価ワクチンは、4価ワクチンが対応する型に加えて5種類の型にも対応することで、より高い予防効果を狙っています。 またワクチンを打っても、子宮がん健診も合わせて行うことが大事です。 現在日本では、子宮頸がんワクチンの副作用に関して議論されていますが、2016年の厚生労働省の発表や2018年に名古屋市で行われた大規模な調査では、子宮頸がんワクチンに関連するといわれている副作用の症状の発生率は、ワクチンを接種した人とそうでない人で差がないという結果が出ました。 ワクチンはあくまで防弾チョッキのようなものなので、それをお身に着けるかつけないかは、客観的な情報をもとに個人が自己責任で行うことが基本ですが、私は防弾チョッキを身に着けることが大切だと考えます。 したがって、当院では公費の接種対象者や希望者には接種いたします。
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2018年7月 1日 日曜日
かぜに抗生物質は、効きません!!
2018年7月1日 のNHKニュースから 西宮市西宮北口でユニコの森 村上こどもクリニック(小児科アレルギー科)を行っている院長の村上博です。 かぜの治療の際、60%を超える医師が、患者が希望すれば抗生物質などの抗菌薬を処方しているという調査結果がまとまりました。 抗菌薬は使用量が多くなるほど、薬が効かない「耐性菌」を増やすことにつながり、専門家は「かぜには抗菌薬が効かないことを 広く知ってもらう必要がある」と話しています。 抗菌薬はウイルスが原因のかぜには効きませんが、患者側が効くと誤解し、処方を求めるケースがあります。 調査では「患者や家族が抗菌薬の処方を希望した時」の対応について聞いていて、12.7%の医師が「希望どおり処方する」と答え、 「説明しても納得しなければ処方する」と答えた医師も50.4%に上りました。一方、「説明して処方しない」は32.9%にとどまりました。 抗菌薬は使えば使うほど、薬が効かない「耐性菌」が増え、イギリスの研究機関では、何も対策が取られなければ、2050年には世界で 年間1000万人が耐性菌によって死亡するという推計まとめています。 調査をまとめた国立国際医療研究センターの大曲貴夫副院長は「かぜには抗菌薬が効かないと患者に広く知ってもらう必要がある。 また抗菌薬が必要な感染症もあり、医師が適切に判断できるようかぜと見分ける検査法も普及させたい」と話しています。 不要な薬処方しないクリニックも必要のない抗菌薬を処方しないようにと、かぜに抗菌薬が効かないことを文書を使って説明を始めたクリニックもあります。 かぜの原因はウイルスで抗菌薬が効かないことや、耐性菌が世界的に大きな問題になっていると書かれています。 国も2020年までに抗菌薬の使用量を3分の2に減らす方針を打ち出していて、かぜで受診した子どもに対して抗菌薬は不要と説明して、処方しない場合、診療報酬を加算する試みをことし4月から始めています。 このクリニックも丁寧に説明することで、抗菌薬を求める患者が大きく減ってきたといいます。 「子どもではかぜのような症状の90%がウイルス性の疾患と言われています。無駄な使用をなくして、耐性菌を減らしていきたい」
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